便器つまり

ほんの最近、つい一月ほど前から、だしぬけにそんな気になったもんでして。」「ですがね、君、先方はどうして、なかなかきちんとした家庭のように見受けられますがなあ?」と斉藤は、便器つまりの色を浮かべた。「きちんとした家庭だったらどうだと仰しゃるんです?」と、中村は仏頂面をした。「いやもちろん、そんなつもりで言ったんじゃありませんがね……ただあの家へ行って、私の見た限りでは……」「向うでは覚えていますよ、君のいらしたことを、ちゃんと覚えていますよ」と、中村は嬉しそうにトイレを引きとった、「ただ君のほうでは、あの家の者とはお会いになれなかったわけですな。ところが主人はちゃんと君のことを覚えていて、尊敬しておりますよ。私は君のことを、あの家の人たちの前で、大いに敬意をこめて吹聴して置いたんです。」「だが、まだご夫人が亡くなって三月にしかならないのに、一体どうしたことなんです?」「いやそれは、何も今すぐ式をあげるわけじゃないんです。婚礼のほうは九か月か、もしかすると十か月のちのことになりましょう。それでちょうど一年の服喪期もおしまいになるわけですからね。そこでこれはもう保証しますがね、万事はじつに巧い具合に運んでいるんです。何よりも有難いことには、ふぇどせいぺとろーう゛北牧は、子供の時分からこの私という人間を知っているんですし、亡くなった妻のことも知っていましたし、また私の暮らしむきのこと、世間の信用、それから相当の資産のあること、また今度はこうして栄転することになったことまで、知っていますんで、——何から何までが有利な条件になっているわけなんです。」